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不正アクセス禁止法・個人情報保護法・情プラ法の違い【情報Ⅰ】

文:野澤 嘉孝 (ソフトウェアエンジニア/プログラミングスクール Sandbox 代表)

不正アクセス禁止法・個人情報保護法・情プラ法の違い【情報Ⅰ】

この記事の概要

「友達を助けるためなら、知っているパスワードで代わりにログインしてもいい?」 善意のつもりでも、無断でアカウントを使えば問題になります。 ネットの法律は、「誰が、何をしたか」を具体的にすると理解しやすくなります。 先に結論:善意でも、無断で使う・広める前に止まろう

「友達を助けるためなら、知っているパスワードで代わりにログインしてもいい?」

善意のつもりでも、無断でアカウントを使えば問題になります。
ネットの法律は、「誰が、何をしたか」を具体的にすると理解しやすくなります。

先に結論:善意でも、無断で使う・広める前に止まろう

  • 他人のアカウントを無断で使わない。 中身を見たり壊したりしなくても、不正アクセス行為になり得ます。
  • 名簿や写真を勝手に広めない。 個人情報保護法が直接適用されない場面でも、プライバシー侵害などの問題が残ります。
  • 被害に遭ったら記録を残して相談する。 投稿の削除を求めることと、投稿者の情報開示を求めることは別の手続です。

この記事では、ユウキの無断ログイン、名簿の転送、ハルカへの誹謗中傷という3つの出来事を通じて、関係する法律を整理します。

動画で復習する人は、情報Ⅰサバイバルの再生リストも活用してください。

友達を助けるためなら、勝手にログインしていい?

夜11時。文化祭実行委員のユウキに、ハルカから連絡が来ました。

ハルカ「熱出た。明日の企画書、間に合わない。」

ユウキは、以前たまたま見えたハルカのパスワードを思い出します。本人にも学校の管理者にも許可を取らず、ハルカのIDで学校のサイトにログイン。企画書を提出し、さらに委員会フォルダのクラス名簿を部活のグループに転送しました。

ユウキ「昨日、ぜんぶ片づけといたよ。」
ハルカ「えっ、私のアカウントで?」
Sandy「ちょお待ちぃ! 手伝うことと、勝手にアカウントを使うことは別やで。」

これは動画内の架空の事件です。翌週には、ハルカの名前や顔写真、悪口が掲示板に投稿される出来事も起こります。ただし、転送した名簿が流出元かどうかは分かっていません。

3つの出来事を、一つの法律だけで判断しようとしないことがポイントです。

不正アクセス禁止法、個人情報保護法、情プラ法の対象と役割の比較

法律の対象と行為を確認し、複数の責任が重なる場合も考えます。

出来事

主に確認する法律・ルール

この話のポイント

他人のIDで無断ログイン

不正アクセス禁止法

助ける目的でも、承諾やアクセスの条件を確認する

名簿を別のグループへ転送

個人情報保護法、プライバシー、学校のルールなど

誰がどの立場で扱ったかを見る。法律の対象外でも自由には広められない

名前・顔写真・悪口を掲示板へ投稿

プライバシーや名誉に関するルール、情プラ法の手続など

投稿内容の違法性と、削除・開示の手続を分ける

1つの出来事に、複数の法律やルールが関係することもあります。

不正アクセス禁止法:中身を見なくても問題になる

不正アクセス禁止法の正式名称は「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」です。ネットワークを通じ、他人の識別符号を使うなどしてアクセス制御をすり抜け、制限されている利用ができる状態にする行為などを禁止します。

IDやパスワードを使う場合のほか、アクセス制御の弱点を突く場合も対象になります。

他人のIDを無断で使うケースでは、データを閲覧・変更する前でも、制限された利用が可能になった時点で不正アクセス行為が成立し得ます。

他人の識別符号による無断ログインでネットワーク・アクセス制御・利用可能な状態を確認する図

他人のIDを使った利用では、承諾やアクセスの条件を確かめます。

「企画書を壊していない」「助けるつもりだった」という理由だけでは正当化できません。
一方、パスワードが偶然見えただけで直ちに無断ログインと同じ行為になるわけでもありません。
知ったことと、実際に使うことは分けて考えます。

本人が承諾していたら?

ここでいう識別符号は、利用者を区別するためのパスワードなどです。アクセス管理者はシステムの利用を管理する人、利用権者はその識別符号で利用する権限を持つ人を指します。

他人の識別符号を入力する類型では、アクセス管理者や、その識別符号に係る利用権者の承諾を得て行うものなどは、法律上の不正アクセス行為から除かれます。

ただし「本人がいいと言ったから、そのアカウントで何をしてもよい」ではありません。承諾の範囲や、学校・サービスの利用規約も別に確認します。困っている友達を助けるなら、まず本人や先生に相談し、正式な提出方法を探しましょう。

パスワードを集める・渡す行為にもルールがある

不正アクセスに使う目的で他人の識別符号を取得・保管する行為や、正当な理由なく他人の識別符号を第三者に提供する行為なども規制されます。目的や承諾などの要件があるため、「知った・持っていた・伝えたら全部同じ犯罪」とは覚えないようにします。

不正アクセス行為の法定刑は、3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。2025年6月に懲役・禁錮に代わって拘禁刑が導入されました。古い教材の表記とは区別し、単なる名称変更で全く同じ制度だとは説明しません。

個人情報保護法:「高校生だから対象外」ではない

ユウキは「名簿を流した自分は、個人情報保護法違反なの?」と気にします。

ここでは、本人の年齢よりも、誰がどの立場で情報を扱ったかが重要です。民間の取扱いの基本では、個人情報データベース等を事業に使う「個人情報取扱事業者」に義務が課されます。

会社だけでなく、個人事業主や非営利の団体も対象になり得ます。

「事業」は営利目的だけを意味しません。自治会、同窓会、PTA、サークルなどでも、活動の実態に応じて該当する場合があります。行政機関や地方公共団体等には、同じ法律の中で別の規律も置かれています。

したがって、「個人には絶対に関係ない」「高校生は常に法律の外」と一律には言えません。今回の物語でも、生徒個人の行為と、学校や団体が名簿を管理する義務を分けて考えます。

仮に個人情報取扱事業者としての義務が直接適用されない場面でも、無断転送が許されるわけではありません。プライバシー侵害による損害賠償や、校則などの問題になり得ます。

Sandy「『この法律には当たらん』と『やってええ』は、違う話や。」

個人情報・個人データ・要配慮個人情報の違い

個人情報は、生存する個人に関する情報で、特定の個人を識別できるものや、個人識別符号を含むものです。

個人情報の中にある個人データと要配慮個人情報の説明

個人データと要配慮個人情報は、どちらにも当たる場合があります。

氏名や顔写真など、その情報だけで個人を識別できる場合に加え、他の情報と容易に照合して分かる場合も含まれます。個人識別符号には、法令で定められた番号や、身体的特徴をコンピューターで識別できるように変換した符号などがあります。

「個人情報」は、秘密の情報だけという意味ではありません。公開されている氏名なども、個人情報に当たり得ます。

用語

意味

具体例

個人情報

生存する特定の個人を識別できる情報など

氏名と連絡先、本人を識別できる顔写真

個人データ

個人情報データベース等を構成する個人情報

氏名で検索できる会員名簿に含まれる、各会員の情報

要配慮個人情報

不当な差別や偏見などを避けるため、特に配慮が必要な個人情報

病歴、人種、信条、犯罪被害の事実など

ポイントは、個人データは「情報の整理のされ方」、要配慮個人情報は「情報の内容」に注目していることです。検索できる会員名簿に病歴が記録されていれば、その病歴は両方に当たり得ます。

データベースはコンピューター上のものだけではありません。紙でも、特定の人の情報を容易に探せるよう体系的に整理した名簿などは対象になります。

要配慮個人情報の取得には、原則としてあらかじめ本人の同意が必要です。

事業者の義務と、本人が請求できること

個人情報保護法は、適切な取扱いを求めるとともに、本人が自分のデータについて請求する仕組みも定めています。

事業者の利用目的・取得・管理・第三者提供の義務と本人の開示・訂正・利用停止の請求

本人の請求にも、対象となるデータや法律上の条件があります。

民間事業者の主な義務には、利用目的の特定と通知・公表等、適正な取得、安全管理措置があります。個人データを第三者に提供する場合は、原則として事前の本人同意が必要ですが、法令に基づく場合などの例外もあります。

漏えい等への対応も、すべて同じ扱いではありません。要配慮個人情報を含む個人データ、財産的被害につながるおそれのある個人データ、不正な目的による漏えい等、1,000人を超える本人に関係する漏えい等など、一定の事態では個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要です。

対象となる漏えい等が実際に起きた場合だけでなく、発生したおそれがある場合も含まれます。 「流出が確定するまで何もしなくてよい」という意味ではありません。高度な暗号化等による除外や、本人への通知が困難な場合の代替措置など、詳しい条件も定められています。

本人による主な請求は、次のように整理できます。

請求

何を求めるか

注意点

開示

自分の保有個人データなどを確認する

対象範囲や、不開示となる場合がある

訂正等

内容の訂正・追加・削除

事実でない内容など、法律上の条件を確認する

利用停止等

利用の停止・消去・第三者提供の停止

法定の要件があり、無条件の削除権ではない

また、業務で扱った個人情報データベース等を、不正な利益を得る目的で提供・盗用した場合などは、個人にも刑事罰が科され得ます。「個人情報の問題は会社への注意だけで終わる」とも限りません。

情プラ法:削除の申出と発信者情報の開示

翌週、掲示板にハルカの名前、顔写真、悪口が投稿されました。

ハルカ「……なんで私の写真が。」
Sandy「一人で抱え込まんとこ。記録を残して、申出や相談の手順を確かめよか。」

情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)は、旧プロバイダ責任制限法を改正し、名称も変わった法律です。改正部分は2025年4月に施行されました。名前だけ変わって中身が全く同じ、というわけではありません。

主な内容は、一定の場合のプラットフォーム事業者等の損害賠償責任の制限、発信者情報開示の仕組み、指定された大規模事業者に対する対応迅速化・透明化の義務です。

投稿の削除を求めることと、発信者の情報を開示してもらうことは、別の手続です。

削除申出から判断通知への流れと、別手続である発信者情報開示

7日以内の通知は、7日以内の削除を保証するものではありません。

指定された大規模事業者には、削除申出窓口の整備、申出に対する調査、原則7日以内の判断・通知などが求められます。例外もあり、すべての掲示板に同じ義務が課されるわけではありません。

「原則7日以内に通知」は「7日以内に必ず削除する」という意味ではありません。 削除しない旨などが通知される場合もあります。

発信者情報開示は、権利侵害が明らかであることや、開示を受ける正当な理由などの要件に基づく制度です。裁判所の発信者情報開示命令の手続などもあります。「気に入らない投稿を通報すれば、自動的に相手の氏名が分かる」わけではありません。

手続

目的

自動的には決まらないこと

削除の申出

問題の投稿を見られなくするよう求める

申し出れば必ず削除される、とは限らない

発信者情報の開示請求

権利侵害への対応に必要な投稿者の情報を求める

通報だけで氏名などが分かる、とは限らない

削除と開示は、順番に一つずつしか進められないものでもありません。状況に応じて、弁護士などに相談しながら検討します。

電子署名法・特定電子メール法も役割で覚える

電子署名法は電子文書の成立の証明に、特定電子メール法は広告宣伝メールの送信ルールに関わります。

電子文書の成立に関わる電子署名法と広告メールの送信を規律する特定電子メール法の比較

電子文書の成立と、広告メールの事前同意は、別の法律の役割です。

電子署名法では、本人による一定の要件を満たす電子署名がある電子文書について、本人の意思に基づいて作られたものと推定する仕組みがあります。

署名画像を貼ったものがすべて同じ扱いになるわけではなく、文書に書かれた内容が真実であると保証する制度でもありません。「誰の意思で作られたか」と「内容が正しいか」を分けます。

特定電子メール法では、対象となる広告宣伝メールは原則として、事前の同意を得て送るオプトイン方式です。例外もあり、送信者の表示や、受信拒否に関するルールも定められています。

友達への普通の連絡を含め、すべてのメールに同じ規制がかかる、と覚えないようにしましょう。

練習:適切な説明はどれ?

これは本記事のオリジナル学習例で、実際の共通テスト問題ではありません。

  • A:個人情報保護法の事業者の義務が直接適用されないなら、名簿を無断で公開してよい。
  • B:ネットワーク通信をせず、端末内の写真を見る行為でも、プライバシー侵害など別の問題を検討する必要がある。
  • C:情プラ法によって、すべての掲示板は削除申出から7日以内に投稿を消さなければならない。

答えはBです。 不正アクセス禁止法が対象とする行為に当たるかと、他人の写真を勝手に見てよいかは別問題です。ここでは写真が端末内だけにあり、ネットワーク通信をしていない条件です。

Aは、他の法的責任やルールを無視しています。Cは、対象事業者と、判断・通知の期限を、削除の保証と取り違えています。

ユウキ「法律の名前だけで、セーフって決めちゃダメなんだ。」
Sandy「せや。誰が、何をしたか。条件まで読むんやで。」

被害を受けたら、記録を残して相談しよう

ハルカは投稿のURL、内容、日時などを保存し、運営の窓口に削除を申し出ました。物語では後日削除されますが、現実のすべての申出が同じ結果になるわけではありません。

自分が被害に遭ったときは、投稿をさらに拡散せず、スクリーンショットやURLなどを残し、保護者や学校の先生にも相談しましょう。法務局の人権相談では、ネット上の人権侵害について削除依頼の方法などの助言を受けられます。

アカウントの不正利用が疑われるなら、サービスの正規の窓口を確認し、パスワード変更やログイン中の端末の確認なども進めます。自分が無断転送をしてしまった場合は、拡散を止め、関係者に伝えて対応を相談します。

まとめ:法律は、禁止するためにも守るためにもある

  • 無断ログインは、閲覧や改ざんをする前でも不正アクセス行為になり得る。
  • 個人情報のルールは、年齢や会社かどうかだけでは決まらない。
  • 個人情報・個人データ・要配慮個人情報を区別する。
  • 削除申出と発信者情報開示、通知期限と削除の保証を混同しない。
  • 「ある法律の対象外」でも、別の責任やルールを確認する。

法律を知ることは、他人の権利を侵害しないためにも、自分が困ったときに助けを求めるためにも役立ちます。

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参考資料

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野澤 嘉孝

この記事を書いた人

野澤 嘉孝

ソフトウェアエンジニア/プログラミングスクール Sandbox 代表

ソフトウェアエンジニア。同志社大学理工学部を経て、京都大学大学院で核融合発電の基礎研究(プラズマ物理)に従事。高校生向け数学塾の講師、大学での物理実験の授業を通じて延べ500名以上の学生をサポート。現在は業界特化型SaaSの開発に携わりながら、小中高生向けプログラミングスクール Sandbox を運営。

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