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フィルターバブルとエコーチェンバーの違いは?SNSと情報の確かめ方【情報Ⅰ】

文:野澤 嘉孝 (ソフトウェアエンジニア/プログラミングスクール Sandbox 代表)

フィルターバブルとエコーチェンバーの違いは?SNSと情報の確かめ方【情報Ⅰ】

この記事の概要

調べものをして、十本の記事が同じ結論だったら。 「これだけ一致しているなら正しい」と思いたくなります。 でも、その十本が全部、同じ一つの資料を写していたらどうでしょうか。 先に結論:記事の数より、根拠の出どころを見よう 十本の記事でも、元の調査は一つかもしれない。 同じ資料の紹介を、十件の独立した裏付けとは数えません。

調べものをして、十本の記事が同じ結論だったら。

「これだけ一致しているなら正しい」と思いたくなります。

でも、その十本が全部、同じ一つの資料を写していたらどうでしょうか。

先に結論:記事の数より、根拠の出どころを見よう

  • 十本の記事でも、元の調査は一つかもしれない。 同じ資料の紹介を、十件の独立した裏付けとは数えません。
  • 自分に見える情報が、社会全体の意見とは限らない。 おすすめの仕組みや、フォローする相手、自分の検索語なども影響します。
  • 「SNSが全部の原因」と決め付けない。 出来事の事実と、その原因を説明する主張を分け、根拠を確かめます。

今回はアラブの春を調べるユウキのレポートを例に、情報が届く仕組みと、根拠をたどって書く方法を学びます。フィルターバブルとエコーチェンバーも、その途中で整理しましょう。

開いた記事が、全部同じ結論だった

社会の授業で「アラブの春」を調べたユウキ。開いた記事は、どれも「SNSが社会を変えた」という結論でした。

ユウキ「十本ともそう書いてる。これで大丈夫でしょ」
先生「なんで全部同じだったと思う?」
Sandy「ちょお待ちぃ!」
ユウキ「同じテロップを何枚も出さないで。大勢に怒られてるみたい」
Sandy「声の主は俺一人やで。今日の話、そこやねん」

ユウキたちの場面は架空の物語です。一方、調べているアラブの春は実際の歴史上の出来事で、区別して読みましょう。

物語での問題は、記事の数と、独立した根拠の数が食い違っていたことです。まず、同じ話が多くの場所へ届く仕組みから考えます。

マスメディアとソーシャルメディア:送り手と受け手の関係

マスメディアは、新聞・ラジオ・テレビなどを通じて、多くの人へ情報を届けます。典型的なモデルでは、限られた送り手から大勢へという関係です。

ソーシャルメディアでは、利用者が発信や共有にも参加でき、利用者同士が情報をやり取りできます。SNSは、人と人のつながりなどを土台に交流・発信するサービスの一種です。

限られた送り手から多数へ届けるマスメディアと、利用者同士がやり取りするソーシャルメディアの典型モデル

典型的な情報の流れの比較です。実際の報道とSNSは相互に関わっています。

観点

マスメディアの典型

ソーシャルメディアの典型

発信

報道機関などが広く届ける

利用者も投稿・共有に参加する

情報の流れ

一対多が中心

多対多のやり取りが可能

注意点

編集や取材対象の選択がある

共有・おすすめ・人間関係による選択がある

これは理解のための対比です。新聞社もSNSを使いますし、テレビに視聴者の反応が届くこともあります。「マスメディアは完全に一方通行、SNSでは全員が同じ影響力」と決め付けないようにしましょう。

常時接続や無線通信、スマートフォンの普及は、日常的な発信や共有をしやすくしました。ただし、これらは一直線に置き換わったのではなく、重なり合って普及しています。

アラブの春:SNSだけで革命が起きたのか

アラブの春は、2010年末から中東・北アフリカに広がった抗議運動や政治変動を指す呼び方です。

時期

主な出来事

2010年12月

チュニジアで抗議が広がり始める

2011年1月14日

チュニジアのベンアリ大統領が退く

2011年2月11日

エジプトのムバラク大統領が退く

SNSなどは、現場の状況を共有したり、抗議行動について連絡したり、国外の人に伝えたりする経路になりました。一方、衛星テレビや対面のつながりなども関わっています。

たとえば、ワシントン大学が2011年に紹介した研究は、投稿などの分析から、政治的な議論や国境を越えた情報共有におけるソーシャルメディアの役割を報告しています。

一方、Wolfsfeldらの2013年の研究は、政治環境の重要性を指摘し、抗議活動の増加に続いて新しいメディアの利用が増える場合が多いと報告しました。

投稿が増えたことと、投稿の増加が抗議を起こしたことは、同じではありません。 何をどの期間・地域で調べた研究なのかも確認します。

失業や生活への不満、政治的な抑圧、組織、軍などの役割を抜きに、「たった一本の投稿が国を動かした」と説明するのは不十分です。逆に「SNSは原因ではなく、単なる道具だった」と役割を完全に切り離すのも強すぎます。

SNSは複数の要因の一つとして情報共有や動員に関わりました。その影響の大きさや働き方は、国や時期、研究方法によって検討が必要です。

ユウキ「『SNSが全部やった』か『関係ない』かの二択じゃないんだ」
Sandy「せや。年表の事実と、その原因を説明する話は分けて読むんや」

同じ話を十回見ても、十回の裏付けにはならない

デジタル情報は、同じビット列を正しく複製できます。さらに利用者が投稿を引用・転載・切り抜きにして共有すると、同じ話が別の場所に何度も現れます。

ただし、コピーしても同じ内容であることと、内容が正しいことは別です。共有ボタンを押しても、必ず大勢に届くわけではありません。

別々の調査が同じ結論に至る場合と、一つの元情報から三つの記事が広がる場合を比較する図

記事の件数と、独立した調査や根拠の数を区別します。

見つかったもの

確認できる根拠

三つの調査が、それぞれ別のデータを調べ、同じ結果を得た

別々の調査による裏付けがある

三つの記事が、同じ一つの調査結果を紹介した

たどり着く元の調査は一つ

後者が悪い記事とは限りません。ただし、「三つの独立した調査で確認された」とは数えられません。記事を開いたら、引用している資料名・調査主体・元のデータを比べてみましょう。

また、独立した情報源が一致していても、共通の思い込みや測定上の問題がある可能性は残ります。出どころの独立性と、調べ方の質を両方見ましょう。

検索順位やおすすめは、真実の順位ではない

検索やおすすめには、検索語、関連性、人気、新しさ、地域、利用履歴など、サービスごとの要因が関わります。すべてが閲覧履歴だけで決まり、すべて同じ機械学習で動いているわけではありません。

反応を集める投稿が広がることはあっても、「感情的な情報が必ず最上位」「並べ方に人の意図は一切ない」とは言えません。

同じ結論の記事が並んだときも、おすすめだけが原因とは限りません。検索語の偏り、元資料の共通性、現時点での証拠の一致などを確かめる必要があります。

フィルターバブルとエコーチェンバーの違い

個別化された検索やおすすめで、異なる情報に触れにくくなる問題を考える際に使われるのが、フィルターバブルです。

エコーチェンバーは、似た意見が集まる集団や情報環境の中で、同じ主張が反復され、強化される現象に注目します。

個別化された情報環境のフィルターバブルと、集団内で反復強化されるエコーチェンバーの比較図

二つは重なる場合もあり、利用者の選択と仕組みを分け切れるとは限りません。

概念

主に注目すること

例として考えられる状況

フィルターバブル

個別化・選別された情報環境

関心に近い情報が優先され、別の見方に気付きにくい

エコーチェンバー

集団内での反復・強化

似た意見の人が互いに同じ主張を引用する

たとえば、ある競技の動画を見るうちに同じ競技ばかり勧められるなら、「個別化によって、ほかの情報に触れにくくなっていないか」というフィルターバブルの観点で考えられます。

同じチームのファン同士が「審判はいつも相手びいきだ」と互いの投稿を繰り返し引用し、確信を強めるなら、エコーチェンバーの観点で考えられます。これは違いを考えるための架空の例で、個々の画面だけで現象を断定するものではありません。

「フィルターバブルは機械だけ、エコーチェンバーは本人の選択だけ」と分け切るのも不十分です。人間関係、選択、おすすめなどが相互に関わる場合があります。

ただし、SNSを使う全員が、いつも異なる意見から隔離されるわけではありません。Reuters Instituteの2022年の研究レビューでは、対象となった国や研究において、幅広いニュース源に触れる人が多いことや、おすすめ等が情報の多様性を増す場合も報告されています。

これは、現在のすべてのSNSや利用者について一律に結論を出すものではありません。用語の意味と、どこでどれくらい起きているかという実証結果を分けましょう。

Sandy「『泡の中や』って決め付ける前に、実際に何を見て、何を見てへんのか調べるんや」

ポストトゥルース:事実より感情や信条が強く働く状況

ポストトゥルースは、客観的な事実よりも、感情や個人的な信条への働き掛けが世論形成に強く影響する状況を表す言葉です。Oxfordは2016年のWord of the Yearに選びました。

「嘘しか存在しない時代」という意味ではありません。また、フィルターバブルとエコーチェンバーがそろうと必ず生まれる、という決まった因果関係でもありません。

自分が納得した理由が「根拠を確かめたから」なのか、「そうであってほしいから」なのかを振り返る手掛かりにしましょう。

KJ法・マインドマップ・ロジックツリーで情報を整理する

資料を集めたら、主張、根拠、出来事、疑問などを分けて整理します。

記述をまとめるKJ法、中心から連想を広げるマインドマップ、問いを分解するロジックツリーの比較図

見た目の矢印の向きだけでなく、整理の目的に合わせて選びます。

方法

主な使い方

KJ法

個々の記述をカードにし、内容を読みながらまとめ、まとまりの関係を考える

マインドマップ

中心のテーマから関連する考えを枝のように広げる

ロジックツリー

問いや課題を要因・選択肢などへ分解して整理する

「下から束ねる、中心から広げる、上から分ける」は理解の補助になりますが、紙の上で矢印がどちらを向くかだけで手法が決まるわけではありません。

KJ法は、単に付箋を好きな箱へ分類して終わるものではなく、記述の内容からまとまりを見いだし、関係を図や文章にして考えていく方法です。自分の結論に合わないカードを無理に消さないことも大切です。

マインドマップやロジックツリーも、情報整理に使えます。「すでにカードがあるから絶対に使えない」といった決め付けは避け、今の目的に合う方法を選びましょう。

JIS・ISO・W3C:規格と団体を区別する

ここは関連知識です。情報の内容が正しいかを確かめる話とは別に、情報を異なる機器やサービスで扱うための共通の約束も必要です。そこで登場するJIS・ISO・W3Cは、すべて同じ種類の名称ではありません。

名称

何を指す?

JIS

日本産業規格という規格の名称

ISO

国際標準化機構という組織

W3C

Webの標準などを策定する組織

JISは2019年7月1日に「日本工業規格」から「日本産業規格」へ名称が変わりました。ISOは幅広い分野の国際規格を扱い、W3CはWebの相互運用性やアクセシビリティなどに関わる標準を扱います。

規格は、すべての道具で必ず使えることや、情報の中身が正しいことまで保証するものではありません。対応する規格や版、実装なども確認する必要があります。

レポートにするときは、主張と根拠をつなぐ

レポート、スライド、Webページなど、伝える形式は目的や相手に合わせます。どの形式でも、他の人の主張・引用・データの出どころが確認できるようにしましょう。

資料と発信者をたどり、情報源の独立性と調べ方を確認し、根拠に合わせて結論を書く四つの手順

主張と根拠をつなぎ、引用・要約・自分の考察を分けます。

アラブの春のレポートなら、次のように分けると書きやすくなります。

  1. 年表にできる出来事を、日付と資料で確認する。
  2. 研究が何を調べ、どんな結果を示したかを整理する。
  3. 研究同士で共通する点と、食い違う点を確認する。
  4. 自分の結論を、確認できた証拠の範囲で書く。

著者、資料名、公表日、URLなどを、指定された形式で記録します。引用と要約、自分の考察は区別しましょう。

反対意見を一本追加すれば十分、というわけでもありません。証拠の強さが違う主張を、数だけそろえて同格に扱わないことが大切です。

練習:一致なのか、同じ情報の反響なのか

以下はこの記事のオリジナル学習例です。実際の共通テスト問題ではありません。

問1:十本の記事が、すべて同じ一つの調査を引用しています。「十の調査で確認された」と書いてよい?

書けません。確認できる元の調査は一つです。元の調査を読み、方法、対象、結果を確認し、追加の独立した証拠があるか調べます。

問2:文化祭の企画を30枚の付箋に書きました。内容の近い記述をまとめ、まとまりの関係から企画の柱を考えたい。どんな方法が合う?

この目的には、KJ法の考え方が適しています。最初から用意した結論の箱へ押し込むのではなく、カードの内容を読みながらまとめることがポイントです。

問3:おすすめ欄に同じ意見が続きました。フィルターバブルだと断定できる?

その画面だけでは断定できません。おすすめの条件、自分の選択、情報源の共通性などを確認します。異なる資料を探すときも、単に逆の意見ではなく、根拠と調査方法の質を見ましょう。

まとめ:件数を数える前に、出どころをたどる

ユウキは年表を作り直し、SNSの役割を評価する研究と、政治的な条件を重視する研究を読み比べました。「SNSだけで起きた」と言い切る代わりに、何が確認でき、どこに議論が残るかを書きます。

ユウキ「一致していたのか、同じ話を繰り返し見ていたのか。それを調べてなかった」
Sandy「そこからや。数の多さと、根拠の厚さは別もんやで」

  • 発信の機会が広がっても、見える情報が社会全体のすべてとは限らない。
  • 同じ主張を何度見たかと、独立した証拠がいくつあるかを分ける。
  • 用語で原因を決め付けず、資料・方法・文脈を確かめる。
  • 情報を整理し、出典を残し、根拠に見合う結論を書く。

情報を集めて整理する力は、探究やアプリ制作でも役立ちます。調査した課題を実際の作品へつなげたい人は、プログラミングスクールSandboxもご覧ください。

参考資料

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野澤 嘉孝

この記事を書いた人

野澤 嘉孝

ソフトウェアエンジニア/プログラミングスクール Sandbox 代表

ソフトウェアエンジニア。同志社大学理工学部を経て、京都大学大学院で核融合発電の基礎研究(プラズマ物理)に従事。高校生向け数学塾の講師、大学での物理実験の授業を通じて延べ500名以上の学生をサポート。現在は業界特化型SaaSの開発に携わりながら、小中高生向けプログラミングスクール Sandbox を運営。

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