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音のデジタル化とは?標本化・量子化・符号化とデータ量の計算【情報Ⅰ】

文:野澤 嘉孝 (ソフトウェアエンジニア/プログラミングスクール Sandbox 代表)

音のデジタル化とは?標本化・量子化・符号化とデータ量の計算【情報Ⅰ】

この記事の概要

通学用に保存した曲は、1曲およそ5MB。 「音って意外と軽いんだ」と思っていたら、有料期間が終わるとオフラインで聴けなくなった——なぜでしょうか。 先に結論:音の仕組み・圧縮・聴ける条件は別の話 音を数値にする:一定間隔で測り、値を段階に丸め、0と1で記録する。これが標本化・量子化・符号化です。

通学用に保存した曲は、1曲およそ5MB。
「音って意外と軽いんだ」と思っていたら、有料期間が終わるとオフラインで聴けなくなった——なぜでしょうか。

先に結論:音の仕組み・圧縮・聴ける条件は別の話

  • 音を数値にする:一定間隔で測り、値を段階に丸め、0と1で記録する。これが標本化・量子化・符号化です。
  • 容量を減らす:圧縮前のデータへ完全に戻せるかどうかで、可逆圧縮と非可逆圧縮を区別します。
  • 聴ける条件を確認する:サブスクで端末に保存したデータも、契約やサービスの条件に従って利用します。

「なぜ小さく保存できるか」と「なぜ再生できなくなったか」は、原因が違います。 ユウキとSandyの物語から順に整理しましょう。

50曲あるのに、オフラインで鳴らない朝

ユウキは通学用に50曲をオフライン保存しました。1曲約5MB。ところが、ある曲のシンバルが少しシャリッと聞こえます。

翌月、有料期間が終わると、保存していた曲をオフラインで再生できなくなりました。

ユウキ「スマホの中に保存したはずなのに?」
Sandy「『入っとる』と『使ってええ』は、別の話や。まず、その音の正体からいくで」

これは台本をもとにした学習用の場面です。保存容量、音質、利用終了の時期はサービスや設定で異なります。「解約ボタンを押すと、その瞬間にすべての曲が消える」という意味ではありません。

音のデジタル化は、標本化・量子化・符号化の3段階

空気中を伝わる音は、圧力の変化として考えられます。マイクは、その変化を電気信号にします。これを数字で記録する代表的な方法がPCMです。

波形の値を等間隔で読み、段階に丸め、ビット列に表す標本化・量子化・符号化の概念図

標本化は時間、量子化は値の段階、符号化はビット列の表記を決めます。図中の番号は説明用です。

手順

何をする?

注目するもの

標本化

一定間隔で、その瞬間の信号の値を読む

時間の間隔

量子化

読み取った値を、決められた段階の値に丸める

値の段階

符号化

段階に対応する値を0と1の列で表す

ビット列

この順番を「横・縦・記号」と考えると整理できます。時間の横軸を区切り、値の縦軸を段階に分け、最後に記号へ変換するのです。

なお、波形の縦軸にある振幅と、音の高さに関わる周波数は別です。振幅は音の強さに関係し、周波数は1秒あたりに何回振動するかを表します。

標本化周波数と量子化ビット数は、別の目盛り

設定

決めること

例

標本化周波数

1秒間に何回、信号の値を読むか

44.1kHzなら毎秒44,100回

量子化ビット数

読んだ値を何段階で表せるか

16ビットなら2の16乗=65,536段階

標本化周波数は時間方向の細かさ、量子化ビット数は値を表す段階の細かさです。単位のHzは「1秒あたりの回数」を意味します。

なお、44.1kHzは「44.1kHzの高さの音」という意味ではありません。音に含まれる振動の周波数と、値を読み取る標本化周波数を区別します。

44.1kHzは毎秒44100回、16ビットは65536段階と、二つの設定を比較する図

標本化周波数と量子化ビット数は異なる設定です。

ユウキ「16ビットって、16段階じゃないんだ」
Sandy「0と1を16桁並べた組合せやからな。段数とビット数は分けときや」

同じ入力範囲なら、段階が多いほど丸めの幅を小さくできます。丸める前後の差が量子化誤差です。誤差は一般に生じますが、入力値がちょうど段階の値と一致する標本では0になることもあります。

標本化定理の「2倍」は、何の2倍?

理想的に帯域を制限した信号では、含まれる最高周波数の2倍を超える標本化周波数で、信号を再構成できるという考え方があります。これが標本化定理です。

たとえば最高周波数20kHzまでを扱うなら、標本化周波数は40kHzを超える必要があります。CDの44.1kHzは、この条件と関連付けて理解できます。ただし、44.1という値の採用には歴史的・技術的背景もあり、単に「20kHzの2倍だから」だけで決まったわけではありません。

実際には、標本化前のフィルタ、量子化誤差、機器のノイズなども関わります。「2倍で録れば、どんな音でも完全に元通り」という理解にはしないでください。

音のデータ量の計算:ステレオの2と、最後の÷8

固定ビット長の非圧縮PCMでは、音のデータ量を次の式で求められます。

標本化周波数×量子化ビット数×チャンネル数×秒数=ビット数

バイトで答える場合は、さらに8で割ります。

44.1kHz・16ビット・2チャンネルの1分間を10584000バイトと求める計算図

音の標本データだけを計算し、ビットからバイトへは8で割ります。

CDと同じ44.1kHz・16ビット・ステレオの条件で、1分間を計算します。

  1. 1秒あたり:44,100回×16ビット×2チャンネル=1,411,200ビット毎秒。
  2. 60秒分:1,411,200×60=84,672,000ビット。
  3. バイトに直す:84,672,000÷8=10,584,000バイト。

ステレオは左右の2チャンネル、モノラルは1チャンネルです。ほかの条件が同じなら、モノラルのデータ量は半分になります。

この計算は音の標本データだけの量です。ファイルのヘッダー、曲名、ジャケット画像などは含めません。圧縮した音声ファイルの容量を、この式だけで直接求めることもできません。

可逆圧縮と非可逆圧縮の違いは「元に戻せるか」

5分の曲を同じPCM条件で考えると、52,920,000バイト。1MB=1,000,000バイトとすれば52.92MB、約53MBになります。

通学用の1曲約5MBとは、ずいぶん差があります。この差を理解する鍵が圧縮です。

圧縮前のデータへ戻せる可逆圧縮と、完全には戻せない非可逆圧縮の比較図

可逆の「元」は圧縮前のデータ。元のアナログ音を誤差なく戻す意味ではありません。

圧縮

圧縮前のデータへ完全に戻せる?

代表例

可逆圧縮

戻せる

音声のFLAC、ファイルのZIP、画像のPNG

非可逆圧縮

完全には戻せない

MP3、通常のAAC、一般的なJPEG

可逆圧縮の「元に戻せる」は、圧縮に入れたデータを復元できるという意味です。PCM化する前のアナログ音を、誤差も含めてすべて取り戻すという意味ではありません。

非可逆の音声圧縮では、人が気付きにくい差や、別の音に隠れて聞き取りにくい成分などを考慮し、情報を減らします。処理の結果、条件によっては音のにじみやざらつきなどが気になることもあります。

ただし、シンバルがシャリッと聞こえたことだけで、圧縮が原因と断定はできません。録音、イヤホン、音量、再生設定なども関わります。

128kbpsなら、5分で何MB?

ビットレートは、1秒あたりのデータ量です。圧縮後の音声全体のビットレートが一定で128kbpsなら、毎秒128,000ビット。5分=300秒なので、

128,000×300÷8=4,800,000バイト=4.8MB

となります。付加情報を除いた計算例であり、特定サービスが常にこの設定を使うという意味ではありません。

問題で分かっていること

バイト数の計算

非圧縮PCMの標本化周波数・量子化ビット数・チャンネル数

標本化周波数×ビット数×チャンネル数×秒数÷8

音声全体の一定ビットレート

ビットレート×秒数÷8

音声全体のビットレートにはチャンネル分も含まれるため、さらにステレオの2を掛けません。 可変ビットレートの場合は、一定値として計算できる条件かを確認します。

5分間の非圧縮PCM52.92MBと128kbps音声4.8MBを比例する棒で比較した図

一定128kbpsなら5分で4.8MB。特定サービスの設定を示した図ではありません。

PCMの52.92MBと比べると、4.8÷52.92×100=約9.07%です。

「圧縮後÷圧縮前×100」を圧縮率と定義するなら約9.07%、「減った割合」なら約90.93%になります。問題文がどちらを求めているか、確認しましょう。

Sandy「『9%になった』と『91%減った』は、同じ変化を別の向きから言うとるんや」

コピーと、非可逆での再エンコードを区別する

非可逆圧縮で失った情報は、ファイルを大きくしても元通りにはなりません。FLACなどに変換しても、すでに失われた音が戻るわけではありません。

ただし、MP3ファイルをそのままコピーするだけなら、ビット列は同じです。追加の音質劣化が問題になるのは、主に非可逆形式で再エンコードする場合です。「保存やコピーのたびに必ず劣化する」とは限りません。

自分の演奏などを編集するなら、非圧縮PCMや可逆圧縮の元データを残し、配布用はコピーから作ると安心です。

音楽の著作権と著作隣接権:曲と録音を分ける

ここまでは、音をデータにして小さくする技術の話でした。ここからは、そのデータをどんな条件で利用できるかの話です。

音楽には、曲を作った人だけでなく、演奏や録音に関わった人などの権利も関係します。同じ曲でも、「楽譜を見て自分で演奏すること」と「市販の録音を使うこと」では、関係する権利が異なります。

対象・立場

主な権利の区分

歌詞や曲を創作した著作者

著作権

歌手・演奏者などの実演家

著作隣接権

音を最初に固定したレコード製作者

著作隣接権

著作隣接権には、このほか放送事業者や有線放送事業者の権利もあります。また、レコード製作者は必ずしも会社とは限りません。

日本の私的使用のための複製には、個人的・家庭内などの限られた範囲での利用を認める規定があります。ただし、何でも自由に複製できるわけではありません。

たとえば、違法に配信された音楽と知りながらダウンロードして録音する行為や、法律上の技術的保護手段の回避によって可能になった複製を、その事実を知りながら行う場合などは、私的使用の例外から外れます。

「自分だけで聴くから大丈夫」と決め付けず、正規の配信や許された方法を使いましょう。

サブスクの保存は「買って自由に使える」とは違う

音楽サブスクのオフライン保存は、契約やサービスの条件に従って利用するための機能です。端末内にデータがあっても、そのまま自由に取り出したり、期限なく再生したりできるとは限りません。

データが端末に保存されている状態と、契約条件で利用できる状態を分けて示す図

端末にあることと、どの条件で再生できるかは別に確認します。

Sandy「スマホの中にあるかどうかと、どんな条件で使えるかは別や」
ユウキ「ファイルだけじゃなくて、利用できる条件も見ないといけないんだね」

たとえばSpotifyの公式案内では、通常のPremium解約後は次の請求日まで利用でき、その後Freeへ切り替わります。無料体験中の解約などには別の扱いがあります。音楽のダウンロードはPremiumの機能で、ダウンロードしたコンテンツを保持するには、少なくとも30日に1度のインターネット接続が必要と案内されています。プラン条件は変更される場合があるため、利用時には公式案内を確認します。

したがって、今回の話は「Spotifyを解約した瞬間、すべての音楽が消える」という説明ではありません。データの保持・削除と、再生権限が使える期間を分け、実際のプラン条件で確認しましょう。

なお、ダウンロード購入でも、曲そのものの著作権まで手に入るわけではありません。CDを持っている場合も同じです。購入とサブスクには利用条件の違いがありますが、どちらも無断で配布してよいことにはなりません。

練習:PCMとビットレートの計算を確かめよう

以下はこの記事のオリジナル学習例です。実際の共通テスト問題ではありません。ヘッダーなどの付加情報は除き、1k=1000、1MB=1,000,000バイトとして計算します。

問1:48kHz・16ビット・モノラルで30秒の非圧縮PCMは何バイト?

48,000×16×1×30÷8=2,880,000バイトです。モノラルなのでチャンネル数は1。最後に8で割ります。

問2:192kbps一定で符号化した3分間の音声は何MB?

192,000×180÷8=4,320,000バイト=4.32MBです。圧縮後のビットレートが分かっているので、チャンネル数をさらに掛けません。

問3:非可逆圧縮した音を可逆形式へ変換すると、失われた音は戻る?

戻りません。可逆形式は、その変換時点で渡されたデータを保つのであり、以前の非可逆圧縮で失った情報を復元するものではないからです。

まとめ:小さくする仕組みと、聴ける条件は別

ユウキは、50曲の容量が小さい理由と、オフラインで使える条件が別の話だと分かりました。次に利用方法を選ぶときは、「何MBか」だけでなく「いつ、どこで、どんな条件で聴けるか」も確認します。

  • 音のデジタル化は、標本化・量子化・符号化。
  • PCMのバイト数は、標本化周波数×ビット数×チャンネル数×秒数÷8。
  • 可逆と非可逆は、圧縮前のデータへ完全に戻せるかで区別する。
  • 保存されたデータと、利用許諾や著作権は別に考える。

画像の階調と音の量子化を比べると、「連続した値を、決めた段階で表す」という共通点も見えてきます。音や画像を使ったアプリ制作に取り組みたい人は、プログラミングスクールSandboxもご覧ください。

参考資料

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野澤 嘉孝

この記事を書いた人

野澤 嘉孝

ソフトウェアエンジニア/プログラミングスクール Sandbox 代表

ソフトウェアエンジニア。同志社大学理工学部を経て、京都大学大学院で核融合発電の基礎研究(プラズマ物理)に従事。高校生向け数学塾の講師、大学での物理実験の授業を通じて延べ500名以上の学生をサポート。現在は業界特化型SaaSの開発に携わりながら、小中高生向けプログラミングスクール Sandbox を運営。

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