「プログラマーになりたい」「ゲームを作る仕事がしたい」
ある日突然、子どもがそう言い出したとき、あなたはどう答えますか?
学研教育総合研究所の2024年調査によると、中学生男子のなりたい職業1位は「エンジニア・プログラマー」(7.0%)。高校生でも全体2位にランクインしています。もはやプログラマーは、子どもたちにとって「なりたい職業の定番」になりました。
でも、親としては不安ですよね。
「IT業界ってブラックじゃないの?」「大学は情報系に行かないとダメ?」「専門学校と大学、どっちがいいの?」「そもそもプログラミング教室に通わせればいいの?」
こうした疑問に答えてくれる場所が、実はほとんどありません。予備校は大学受験の話しかしないし、プログラミング教室は「楽しく学ぼう」で止まる。IT業界のリアルを知っていて、かつ中高生の教育にも関わっている人が身近にいない限り、親は判断材料を持てないまま立ち止まることになります。
この記事では、京都大学大学院を卒業後、現役のソフトウェアエンジニアとして働きながら、中高生向けのプログラミングスクールを運営している立場から、できるだけ正直にお伝えします。どの進路を選ぶべきか、今のうちに何をしておくべきか、そして親としてどう関わればいいか。進路の全体像をお見せします。
関連記事: AIがコードを書く時代に、子どもにプログラミングを学ばせる意味はあるのか? 「そもそもAI時代にプログラミングを学ぶ意味があるのか?」という疑問をお持ちの方は、こちらの記事を先にお読みください。
「プログラマー」の実態は、親世代のイメージとかなり違う
まず、「プログラマー」という言葉のイメージをアップデートさせてください。
暗い部屋で一日中コードを書き続けている——そんなイメージを持っている方は多いかもしれません。実際には、プログラマーの仕事は驚くほど多様です。
たとえばWeb系のエンジニアは、チームで議論しながらサービスを改善していく仕事です。ゲーム開発者は、デザイナーや企画職と密に連携します。AI系のエンジニアは、数学やデータ分析の知識を使って新しい技術を研究開発します。同じ「プログラマー」でも、分野によって仕事の中身はまったく異なります。
年収についても、幅があります。新卒1〜2年目で350万〜450万円程度からスタートし、経験を積めば600万〜800万円。Web系やAI系で高いスキルを持つエンジニアであれば、1000万円を超えることも珍しくありません。
ここで大事なポイントがひとつあります。この年収の差を生むのは、学歴ではなく「何ができるか」です。もちろん学歴がまったく関係ないわけではありません(後述します)。ただ、IT業界は他の業界に比べて、実力がストレートに評価される世界です。「どの大学を出たか」よりも「何を作れるか」「どんな問題を解決できるか」が問われます。
だからこそ、中高生のうちから「触れておく」ことに意味があるのです。
進路マップ:プログラマーになる5つのルート
「で、結局どうすればプログラマーになれるの?」
ここが親御さんが一番知りたいところだと思います。プログラマーになるルートは、大きく分けて5つあります。それぞれのメリットとデメリットを、正直にお伝えします。
① 普通科高校 → 大学(情報系学部)→ 就職
最も選択肢が広がるルートです。
大学で情報工学やコンピュータサイエンスを学べば、基礎理論から実践まで体系的に身につきます。加えて、大手IT企業(NTTデータ、サイバーエージェント、楽天など)は「大卒以上」を採用条件にしていることが多く、就職先の選択肢が圧倒的に広がります。
また、大学4年間で「やっぱり別の分野に興味が出た」となっても方向転換が利くのも大きなメリットです。
デメリットは、学費と時間。4年間で400万〜600万円程度(国公立の場合)かかりますし、卒業するのは22歳です。また、大学のカリキュラムだけでは実践的なプログラミングスキルが十分に身につかないこともあります。自分でも手を動かして作品を作る姿勢が求められます。
向いている子: 将来の方向性がまだはっきりしていない子、大手企業も視野に入れたい子、AI・機械学習などの先端分野に興味がある子
② 高専(5年一貫教育)
15歳から5年間、専門的な技術教育を受けられるのが高専です。
実は、IT業界では高専出身のエンジニアは非常に評価が高いです。早い段階から実践的な技術に触れているため、即戦力として活躍できることが多い。高専卒で大手企業に就職するケースも珍しくありませんし、さらに大学に編入して学士を取るルートもあります。
デメリットは、15歳の時点で進路をかなり絞ることになる点。「やっぱり文系に行きたい」となったときの方向転換が難しくなります。また、近くに高専がないことも多く、寮生活が必要になる場合があります。
向いている子: すでに「ものづくり」が好きだとはっきりしている子、早くから専門的に学びたい子
③ 普通科高校 → IT系専門学校 → 就職
2年間で集中的に実務スキルを身につけるルートです。
「早く現場に出たい」「とにかくプログラミングをたくさん書きたい」というタイプの子には合っています。専門学校はIT企業とのパイプを持っていることが多く、就職率が高いところも魅力です。
ただし、正直にお伝えすると、専門卒と大卒では就職先の選択肢に差が出ます。特に大手企業や、研究開発寄りのポジションは大卒を条件にしていることが多い。将来的にキャリアの天井を感じる可能性があることは、頭の片隅に入れておいてください。
また、専門学校の質はピンキリです。カリキュラムの内容や就職実績、講師が現役のエンジニアかどうかなどを、必ず事前に確認してください。
向いている子: 目標が明確で、なるべく早く就職したい子
④ 工業高校・商業高校の情報科 → 就職 or 進学
高校の段階からプログラミングに触れられるルートです。
工業高校の情報技術科などでは、基本情報技術者試験の対策も含めたカリキュラムが組まれていることがあります。卒業後すぐに就職するルートもありますし、ここから大学や専門学校に進学することもできます。
ただし、高卒での就職は選択肢が限られる傾向にあります。エンジニアとしてのキャリアを広げたいなら、その後の進学を視野に入れておくのが現実的です。
向いている子: 座学より実技が好きな子、早くから技術に触れたい子
⑤ 独学・オンライン学習
今はProgate、ドットインストール、YouTubeなど、無料または低コストでプログラミングを学べるリソースが山ほどあります。
独学だけでプロのエンジニアになった人も確かにいます。ただし、これだけで安定したキャリアを築くのはハードルが高い。独学で学べるのは「技術」だけで、チーム開発の経験、ビジネスの理解、コミュニケーション能力など、仕事で求められるスキルは独学だけでは身につきにくいからです。
独学は、上の①〜④のどのルートとも組み合わせて使うのがベストです。学校の勉強+自分で作品を作る、という両輪が最も強い。
向いている子: 自走力がある子(ただし補助的に使うのが現実的)
中学生・高校生が「今」やっておくべき3つのこと
「進路はわかった。で、今は何をすればいいの?」
これが最も実用的なパートです。中学生・高校生のうちにやっておくと、将来の選択肢が確実に広がることが3つあります。
1. 何かひとつ「完成」させる
これが一番大事です。
Scratchでもいい。HTMLとCSSで簡単なWebページを作るのでもいい。Pythonで電卓アプリを作るのでもいい。AIを使ってゲームを作ってみるのでもいい。大事なのは、「途中まで学んだ」ではなく**「動くものをひとつ完成させた」**という経験です。
なぜか。プログラミングの学習で最も多い挫折パターンは、「教材を進めているうちに何のために学んでいるかわからなくなる」ことです。でも、「自分が作ったゲームが動いた!」「友達に見せたらすごいと言われた!」という経験は、その後の学習の強力なエンジンになります。
AIがコードを書いてくれる時代だからこそ、「完成させた経験」の価値はむしろ上がっています。AIを使えば「作りかけ」は誰でも量産できる。差がつくのは、最後まで仕上げ切る力です。
これは将来の就職活動でも効いてきます。IT企業の採用では「ポートフォリオ」——つまり自分が作った作品を見せることが一般的です。中高生のうちから「完成させる」習慣がついていると、大学生や専門学生になったときに圧倒的なアドバンテージになります。
2. 学校の勉強を手を抜かない(特に数学と英語)
「プログラマーになるなら学校の勉強は要らない」と思うかもしれませんが、これは半分正解で半分間違いです。
AI・機械学習の分野に進むなら、線形代数や微分積分は必須です。ゲーム開発でも、キャラクターの動きや当たり判定には座標計算や三角関数、物理演算の知識が求められます。「数学なんて使わない」と言えるのは、ごく一部の領域だけです。
英語については、どの分野でも重要です。プログラミングの最新情報の多くは英語で発信されます。エラーメッセージも英語、公式ドキュメントも英語、Stack Overflowの回答も英語。「英語が読める」というだけで、アクセスできる情報量が10倍以上になります。
つまり、学校の勉強は「プログラマーになるため」というよりも、「将来どの分野にも行けるように選択肢を残しておくため」にやるべきものです。進路マップの①(大学ルート)を選ぶためには、当然ながら受験に耐えうる学力が必要です。
3. 「触ってみる」機会を増やす
中学生・高校生がプログラミングに触れる方法は、今はたくさんあります。
オンラインのプログラミングイベントに参加する。プログラミング教室の体験に行ってみる。学校の文化祭でWebサイトを作ってみる。何でもいいので、「触ってみる」ことが大事です。
ここで大事なのは、合わなければやめていいということ。プログラミングを触ってみて「自分には向いていないかも」と思ったら、それも立派な発見です。向き・不向きは実際にやってみないと絶対にわかりません。
逆に「これ、めちゃくちゃ面白い!」となったら、そこからは自分でどんどん進んでいけます。中高生の吸収力は大人の比ではありません。その「面白い」という原体験を、できるだけ早く、できるだけ低コストで得ることが理想です。
親がやるべきこと、やらないほうがいいこと
最後に、親の関わり方について。
やるべきこと
環境を整える。 これが最大の貢献です。プログラミングに必要なのは、パソコンとインターネット環境。高性能なものでなくてかまいません。中古のノートパソコンでも十分にプログラミングは始められます。
子どもが「作ったもの」に興味を持つ。「今日はどんなの作ったの?」「どうやって動かしてるの?」と聞いてあげるだけで、子どものモチベーションは驚くほど上がります。技術的なことがわからなくてもまったく問題ありません。「見てほしい」「認めてほしい」という気持ちに応えることが大事です。
体験の機会を提供する。 無料のプログラミングイベントやオンライン体験会など、初期投資ゼロで始められるものは今たくさんあります。いきなり月謝のかかる教室に申し込む前に、まずは無料で試せるものから始めてください。
やらないほうがいいこと
「将来のため」とプレッシャーをかけること。「プログラミングは将来役に立つから」「ITは稼げるから」という動機づけは、子どもにとってはプレッシャーでしかありません。プログラミングに限らず、子どもが何かに夢中になるのは「楽しいから」です。将来の話は、子ども自身がもっと知りたいと思ったときに、一緒に調べればいい。
高額な教室に即決すること。 プログラミング教室の月謝は、他の習い事に比べて高い傾向があります。月1万〜2万円は一般的な価格帯です。必ず体験してから判断してください。「体験が楽しかったから」と勢いで入会するのではなく、子どもが1ヶ月後も3ヶ月後も通いたいと思えるかを基準に考えましょう。
「プログラマーは不安定だからやめとけ」と否定すること。 気持ちはわかります。でも、冒頭でお伝えした通り、IT人材の需要は伸び続けています。頭ごなしに否定するのではなく、「じゃあ一緒に調べてみようか」と言える親であってほしい。そのための情報は、この記事でお渡しした通りです。
まとめ:まずは「触ってみる」ことから
「プログラマーになりたい」と言った子どもの夢を、正しく応援するために必要なのは、高額な教室でも特別な才能でもありません。
必要なのは、「触ってみる」機会と、「完成させる」経験。そしてそれを見守ってくれる大人の存在です。
私たちSandboxでは、全国の中高生を対象に、オンラインで参加できる無料プログラミング体験イベントを定期開催しています。実際に動くゲームを完成させる内容で、パソコンとネット環境があれば誰でも参加できます。
「プログラマーに向いているかどうか」は、やってみないとわかりません。まずは気軽に触ってみることから始めてみませんか。